高校野球・日本文理連載1 「大人」になったエース飯塚の夏

高校野球・日本文理連載1 「大人」になったエース飯塚の夏


日本文理飯塚投手 メーン全国高校野球選手権が8月9日、甲子園球場で開幕する。2年連続8回目の出場の新潟県代表・日本文理は、大会2日目・10日の1回戦で大分代表の大分と対戦する。日本文理のエース飯塚悟史はプロ注目の好投手。目指してきた「大人のピッチング」を披露し、新潟県勢初の全国制覇を狙う。

日本文理の初戦の相手、大分のエース佐野皓大は最速150キロをマークしたこともある注目株。ほかにも盛岡大付(岩手)の松本裕樹、東海大相模(神奈川)の吉田凌、山形中央の石川直也など、今大会は150キロ近い速球を投げる本格派が目白押しだ。

 

飯塚もその一角に名を連ねている。186センチ、83キロの体格から繰り出す速球の最速は146キロ。準優勝した昨秋の明治神宮大会では、決勝で3本の本塁打を放つなど、打者としても全国レベルだ。昨夏から甲子園のマウンドを踏み、今春のセンバツも経験した。そして最後の夏。大会前からプロ12球団全てがマークする全国トップレベルの投手に成長し、甲子園に戻ってきた。

 

「将来はプロで活躍したい。投手としてです」。剛腕ぶりを見せつける高校生活の大舞台。ただ、頭の中にあるのはライバルたちとのスピードの競演ではない。「当然勝つことが大事。全国制覇を目標に、まず初戦を突破したい。昨年の夏も、今年の春も初戦で負けていますから」。勝つためのピッチング。それが飯塚の課題であり、最大の目的だった。

 

沖縄尚学と対戦した昨秋の明治神宮大会決勝は、8-0とリードしながら、逆転を許して8-9。今春のセンバツは豊川(愛知)に延長13回、3-4でサヨナラ負け。全国大会で詰めの甘さを痛いほど感じた。原因ははっきりしていた。「以前は、球の速さを追求していました。それでフォームを崩すこともあったんです」。思い切り腕を振ってストレートを投げ込み、三振に切って取る。それが自分のピッチングだと思っていた。

 

だが、それだけでは全国の強豪を押さえ切ることはできない。どんなに速くても、打席を重ねるたびに打者は目が慣れてくる。勝つために、こだわりを捨てた。「個人の数字がすごくても勝たなきゃ意味がないです。駆け引きと制球力を重視して、打者を打ち取ることが大切。力いっぱいの球は大事なときにだけ投げる」。少し大人になった。自慢の速球は投球術の武器の1つに位置付けた。自己満足に陥るのではなく、冷静に結果を求めるよう、気持ちを切り替えた。

 

日本文理OBで元ヤクルト投手の本間忠氏のアドバイスで、フォームにも手を加えた。「130キロを投げる感覚のフォームで135キロくらいを出せれば、打者はタイミングが合わせづらいんです」と本間氏。大きく腕を振るのではなく、テークバックを小さくして、肘をスムーズにたたむ。一見、軽く投げているようだが、「体の軸がしっかりしているので、体重がボールに乗りやすいし、制球力もつく」(本間氏)。それをマスターすることで、球の伸びと安定感が増してきた。

 

成果は、関根学園に4-2で逆転勝ちした今夏の新潟県大会決勝で現れた。2回までに2失点し、0-2リードされたが、3回以降はほとんど走者を出さずに無失点。9回裏に小太刀緒飛の逆転3ランが飛び出す流れを作った。「1、2回は緊張したけど、その後は落ち着いて投げられました」。3回以降、速球をコーナーに散らし、キレを欠いていたスライダーではなく、要所でフォークを使った。自分の調子を見極め、慌てずに修正する力があることを示した。

 

ピッチングの精度を高めることで、小さくまとまり、スケールの大きさが損なわれるのでは…。プロでの活躍を期待する関係者の中には、そんな声もある。本間氏は言う。「飯塚君は体力も含めてまだまだ未完成。フィジカルを鍛えて、フォームを追求していけば、今より速い球はすぐに投げられるようになります。むしろ、今のうちに投球術を身に着けておくことがプラスになる」。勝つための思考の切り替えは、むしろ将来に好影響を及ぼすと見ている。

 

通算3度目、そして最後の甲子園。全国のファンやマスコミ、プロをはじめとする野球関係者の視線を浴びるマウンドになる。「注目されているのは分かっています。励みになるというか、『やってやる』という気持ちです」。高校生活の集大成の夏は、大器にとって将来へのワンステップになる。(斎)

☆いいづか・さとし●1996年10月11日生まれ。上越市出身。6歳のときに直江津ガンバーズで野球を始める。直江津中3年では新潟県選抜のメンバーとして、Kボール全国大会準優勝。日本文理では1年夏からベンチ入り。2年夏に甲子園出場。昨秋の明治神宮大会で準優勝。今春のセンバツは初戦敗退。186センチ、83キロ。右投げ左打ち。