高校野球・日本文理連載3 「全国制覇」を掲げた夏~大井道夫監督

高校野球・日本文理連載3 「全国制覇」を掲げた夏~大井道夫監督


大井監督 本文今夏の全国高校野球選手権に2年連続8回目の出場を果たした日本文理を率いるのは、今大会最年長の72歳の大井道夫監督。今回が日本文理を率いて春夏通算13回目の甲子園だ。2009年夏には準優勝に導くなどの実績を持つ名伯楽にとって、夏の2年連続出場は初めてのこと。全国制覇を掲げて乗り込むベテラン監督の胸中を聞いた。

 

〈プレッシャーをはねのけて手にした2年連続の夏切符〉

――夏の大会は2年連続、昨夏から数えて3季連続の甲子園出場を果たしました。新潟県大会では大本命として注目され、しかも全国制覇を目標に掲げた中での今回の出場ですが、プレッシャーもあったのでは。
「ありましたね(笑)。絶対本命だ、といろいろな人に言われましたからね。私がプレッシャーを感じていたのだから、子どもたちも大変だったと思います」
――1986年に監督に就任して28年、今回が春夏合わせて13回目の甲子園です。春夏連続出場は2006、9、11年と今回の4度ありますが、夏の連続出場は初めてです。感覚的に違うものですか。
「うれしさという面では、今回は本当にうれしいです。やはりプレッシャーが今までよりありましたから。もちろん、甲子園に出られるというのはいつもうれしいですが、今回は特別にうれしい。あのプレッシャーの中で勝った選手たちを褒めたいし、感謝しています」
――新潟県大会の決勝は関根学園に4-2。9回裏に小太刀緒飛選手の逆転サヨナラ3ランが飛び出す劇的な勝利でした。あの試合はリードされて終盤に入る苦しい展開でした。それ以外も新潟県大会は接戦が多く、コールド勝ちは2試合だけでした。
「初戦の新潟高校戦から選手たちは固くなっていましたね。それもプレッシャーだったのかもしれません。決勝もエースの飯塚(悟史)は、失点した1、2回は緊張していました」
――大会を通じて、それを解きほぐすために、どんな工夫をしたのですか。
「県大会の最中は、『先のことは考えるな。一戦一戦、目の前の相手に勝とう』と言い続けました。それで最後、決勝で勝てればいい、と。もしそれで負けたとしたら、相手が上だったということですから。『普通にやればそれでいい』と。でも、私が思う以上に子どもたちはしっかりしていましたね」
――と、言うのは。
「昨年の夏の甲子園、秋の明治神宮大会、春のセンバツと、このチームのメンバーのほとんどがこれらの全国大会を経験しています。北信越大会は優勝していますし。場数を踏んでいるだけに落ち着きがありますね。これが大きいと思うね」
――経験豊富なチームが出場するという面でも、今回の甲子園は楽しみですね。
「子どもたちはプレッシャーから解放されたと思います。同時に、自信も深めたと思いますよ。だから甲子園では伸び伸びと野球をしてもらいたいんです。私たちの目標は全国制覇です。2009年に準優勝していますから、目指すのはその上しかない。ただ、選手には言いました。『そこは気にしなくてもいい。思い切りやりなさい』と。全国制覇は目標であって、義務ではない。もちろん、本気で目指しますが、そこばかりに気持ちが向いてしまって、今までやってきたことを出せなくなっては、悔いを残します」

〈全国制覇を狙う意識でたくましくなった選手たち〉

――その全国制覇を目標に掲げたことで、どんな影響があったと感じていますか。
「選手は目的や、野球に対する意識が普段から高くなりました。たくましさが出てきたことも間違いないです。県外で練習試合をするとき、今までは『こんなに強いチームとやるのか』という雰囲気でしたが、今はどことやるときも対等です。気後れは感じないです。関東に行っても、九州に行っても、ありがたいことに、相手チームがうちを重視してくれます。横浜、日大三、東海大相模、西日本短大付などね。そういう面では、全国大会でも堂々としています」
――大井監督自身の全国制覇への意識は。
「上を目指さなければ、という気持ちを明確にしたんです。全国制覇を最初に掲げたのは私なんです。準優勝する前年、グラウンドに『全国制覇』のボードを張り出すことにしたんです。準優勝したからではなく、その前からだったんですよ、公に全国制覇を目標にしたのは。私がそれを言う分には『何を考えているんだ』と言う人はいないでしょう(笑)。若い監督だったら『こいつ、生意気に』って思われるかもしれませんが、私だったら、皆さん『まあ、仕方ないか』で済ませてくれるでしょう(笑)。いつまでも甲子園に出ることが目標なのでは、新潟の高校野球は変わらない。甲子園で勝ち進むことを目指さなければ。全国制覇を目標にするチームが身近にあれば、他のチームの刺激にもなるかもしれません。そうやって県全体が高い目標を持って取り組むようになれば、と思うんです」
――実際に、新潟県のレベルは上がっていると感じますか。
「上がっています、これは本当に。他校の監督さんからも、県外との練習試合で一目置かれるようになった、内容の濃い試合をするようになったという話を聞きました。、昔は130キロを出す投手がいれば、県ナンバーワンの剛腕でした。今は140キロくらいでも、それほど目立つわけではないです。選手の能力も高くなり、野球の理解度も深くなったと思います」
――選手を指導する上で、自分の中で何か変化はありましたか。
「昔は、打つにしても、守るにしても何か気が付くと練習を止めて『そうじゃなく、こうしろ』という言い方でした。今は『なぜ、今、止められたか分かるか』と選手に聞くようにしています。そして、選手から正しい答えが出てきたら、結果がミスであったとしてもOK。間違っていたら、そこで正解を教えます。なぜダメなのかも。選手に考えさせなければならないんです。当たり前ですが、そのことで頭の中に残りますから。すると、試合中のさまざまな場面で応用できるようになります」
――今年のチームは、自分で考えるということはできていますか。
「ある程度ですね。飯塚、小太刀、捕手の鎌倉航あたりは。まあ、少し不足している選手もいますが(笑)。心構えはみんなあります」
――もう甲子園の雰囲気や暑さ対策は熟知していますね。
「そこは問題ないです。心配なのは、私の健康面だけ(笑)。皆さんに言われるんです、『暑いからあまり外に出ないで、ホテルでじっとしていてください』って(笑)」
――全国制覇を期待し、応援している高校野球ファン、関係者はたくさんいます。
「もちろん、そこに向かって進みます。そのために一戦一戦全力で。これは県大会と同じです。まず初戦です。選手は全国制覇を目指すということが、意識付けされていますから、これ以上言う必要はないです。達成するために目の前の試合に全力を尽くす。それだけです」

(斎)