【BBガールズ通信】vol2 選手からコーチへ転身を遂げる18歳

【BBガールズ通信】vol2 選手からコーチへ転身を遂げる18歳


文/頓所理加(BBガールズ普及委員会・代表)

【BBガールズ通信】Vol.2⑦

氏名茂木 奈緒(もてき なお)
出身地:東京都
投打:右投右打
ポジション:外野手
年齢:18歳
生年月日:1997年4月12日
身長:160cm
球歴:開志学園高校(女子硬式)

私は、新潟県にある開志学園高校女子硬式野球部でコーチをしています。そこで教え子だった茂木奈緒さんに、スポットを当ててみたいと思います。2013年、開志学園高校に女子硬式野球部が創部されました。彼女は、女子硬式野球部の第一期生の選手にあたります。
16歳で親元を離れ、東京から新潟に来ての寮生活。彼女は、新しい環境に慣れることに戸惑いながらも、副キャプテンとして、チームを一から作り上げる事に全力を注いでくれました。そんな彼女も、3年生となり、昨年の夏には引退をしました。3年間の野球部生活を経て、今春からは関東に戻り大学生となります。新しく出来た志木市を中心に活動をする中学女子硬式野球クラブチーム「むさし野硬式野球団 オールシャインズ(All Shines)」にて、コーチをする事も決まりました。中学生中心で構成される立ち上げたばかりのチームを、大学生となった彼女が、どのようにコーチングをしていくのかが、とても楽しみです。

平成27年12月、開志学園高校グランドにてインタビューを行いました。

【BBガールズ通信】Vol.2①

野球を始めた学童の頃。野球一家の仲間入り!

「物心ついた時には」

彼女が物心ついた時には、家での会話の中心は、いつでも野球でした。父は少年野球チームのコーチ、母も野球経験があり、兄も少年野球をしているという完全なる野球一家だったそうです。彼女は、小学校に上がると同時に野球の道へ進みます。「家族の輪の中に入りたかった。寂しかったのかもしれません。野球の会話ばかりの我が家だったから」とにっこりと話します。

品川区の少年野球チーム「北二ブルーレーシング」に所属し、6年生まで野球を頑張った彼女。「選手の人数が少なかったおかげで、キャッチャーとサード以外は、全て守らせてもらえました!」色々なポジションを経験出来る事が、とても楽しかったそうです。野球が大好きで負けず嫌いな彼女は、どんどん成長し、常にレギュラーで試合に出られるようになりました。そんな中、高学年になるにつれて、男女の壁も少しずつ感じ始めるようになります。「なんで、野球をする女の子が少ないのだろう」。素朴な疑問でした。それでも、野球と正面から向き合い続けた彼女は「やっぱり野球を始めて良かったです!小学生の頃の思い出のほとんどが野球ですから(笑)」と話してくれました。

「野球を続ける二度の決断」

中学に上がる時と、高校に上がる時。実は、この二度のタイミングで、彼女は野球を辞める事を考えていました。野球が嫌いでという事ではなく、野球に対して「やりきった」という満足感があったからだといいます。でも、不思議なもので、どちらの時も最終的には「野球を続ける事」を決断しています。そう決断させたのには、どんな理由があるのでしょう。

【BBガールズ通信】Vol.2③

三鷹W時代。初めて全員で掴んだメダル!

彼女が中学に上がる頃、一度目の決断の時が訪れます。小学生の頃から、男子と野球をしてきた彼女。色々な面での男女の差を感じ始めていた中で、中学では男子野球部には入らないと決めていました。部活動で野球をしないという事は、野球を辞める事を意味していました。しかし、彼女の心を揺るがす事が起こります。2010年の春。彼女が中学に上がる年に、「三鷹W」という女子軟式野球クラブチーム(中学)が創部となりました。女子だけの野球チームの三鷹Wに、とても興味を持ちました。すぐにチームについて調べ、体験会にも行き、自分の想いを確かめたといいます。女子選手だけのチームですが、決して仲良しチームではなく、一人一人が本気で白球を追いかけて、彼女の目には全てがとても新鮮に映りました。初めて見た女子野球!「ここで野球を続けたい!」彼女は、強く思いました。

【BBガールズ通信】Vol.2④

開志学園高校女子硬式野球部!創部三年目!やっと3学年が揃いました!

彼女が高校に上がる頃にも、偶然創部のタイミングとなり、二度目の決断をします。2013年の春。開志学園高校に女子硬式野球部が創部されました。三鷹W時代にお世話になった水口弘人監督に「野球部の歴史を作る!そこにチャレンジしてごらん」と背中を押されたといいます。そして、同じ頃、当時の開志学園高校の顧問の先生から「うちの高校で、一から部活を作り上げませんか!」と声をかけられます。「歴史を作る!一から作り上げる!」そこに大きな魅力を感じ、気が付けば開志学園での硬式野球部へのチャレンジを決意していました。東京から新潟へ移り、親元を離れての寮生活。不安よりも夢と希望であふれていました。

「コーチになる運命だったのかな」

彼女は、中学・高校時代に、それぞれ別の女性コーチに指導されることとなります。中学時代に三鷹Wで出会った水口亜海コーチは、前出の三鷹Wの水口弘人監督の娘さんで、現役の高校生でした。高校生のコーチが、女子中学生選手を抱える三鷹Wで、年齢の近い選手達を教える。これには、難しさもあったかと思いますが、常に選手と同じ目線で正面からぶつかる姿に、三鷹Wの選手達は、すぐに心を開いたといいます。「どんな場面でも妥協がなく厳しかったコーチです」と言いつつも、大好きだったとの事。「厳しい中にも愛情がありましたから」彼女にとって、亜海コーチの存在は、凄く大きいものなのだと感じました。

そして、高校で出会った女性コーチが頓所になります。彼女にとって私がどんな存在だったかは、本音は彼女の胸の中にあります(笑)。怖かったのか優しかったのか…取材をしているのが私ですから、言いにくいこともあるでしょうしね。私は、選手と向き合う時には、出来るだけ彼女達の自主性にまかせるようにしていました。自分達で考え、行動できるようになって欲しい。そんな中、彼女とは沢山語り合いました。チームを作り上げるという作業は、選手だけでもスタッフだけでも出来ません。お互いの理解と協力があって、初めて成り立ちます。チーム内における橋渡し役を、彼女には一緒に続けてもらってきました。

【BBガールズ通信】Vol.2②

三鷹Wの頃の憧れの存在。辻未来キャプテンと!

今春からコーチにチャレンジすることが決まっている彼女。「二人の女性コーチに教えてもらってきたこれまでの経験を活かし、自分らしいコーチになりたいと思います」と話してくれました。この「自分らしい」というのは、彼女が自分の中で常に大事にしている言葉だといいます。彼女が三鷹Wでキャプテンに任命された時の事、前キャプテンだった辻未来キャプテンに「いつか、未来先輩のようなキャプテンになりたいです!」と言った時「私を目標にしたらダメだよ。それ以上になれないしね。自分らしくやらないと。奈緒らしくね」と言われたそうです。その時の言葉は、彼女の中で今も深く刻まれています。「本当に良い先輩に恵まれました。良い指導者にも恵まれました。だから、やっぱり私は指導者になる運命だったのかもしれませんね」

【BBガールズ通信】Vol.2⑤

【BBガールズ通信】Vol.2⑥

誰よりも声をだし、全力でボールを追いかける!それが彼女の野球スタイル!

 

「大きな壁を乗り越えて」

私が開志学園高校時代の彼女を見てきた中で、一番印象的だったのは、彼女が大きな壁を乗り越えた時期です。開志学園での彼女の野球を、1年生の頃からずっと見てきました。2015年、3年生になるという春の横浜遠征。彼女はシートノック中に、大きな怪我をしました。外野で守備に着いていた彼女に、ノックのボールがイレギュラーをして急に曲がり、彼女の顔面に目がけて飛んできたのです!救急車で搬送されるほどの大怪我でした。

病院通いで、彼女は野球から一ヶ月以上戦線離脱する事となりました。彼女の野球人生において、こんなに大きな怪我は初めてだったそうです。高校最後の春大会の目前という時期でもあり、野球が出来ないという不安と焦りから、彼女は心のバランスを崩しました。彼女の涙も見ました。彼女の苦しそうな姿も見ました。でも彼女は、逃げませんでした。当時の自分としっかりと向き合い、壁を乗り越えたのです。その頃を振り返り「もう二度と野球には戻れないと思っていました。このまま選手には戻れないだろうなと。」そんな彼女と毎日自主練に付き合う仲間がいました。彼女と本気で背番号争いをするライバルも、彼女の復帰を待ちました。「彼女をプレーヤーとしてグランドに戻そう」という空気が、その時のチームにはありました。彼女自身の心の強さもありますが、彼女が壁を乗り越えられたのは、仲間達の存在も本当に大きかったように思えました。中学・高校での野球は、彼女の野球人生の中で誇りだといいます。彼女の言葉は止まりません。「何よりも大切な仲間が出来ました。宝物です」「あれだけきつく苦しい経験は、もう二度とないだろうな(笑)」

【BBガールズ通信】Vol.2⑧

開志学園の一期生メンバー!最高の仲間、宝物です!

今春から、彼女は大学に通いながらクラブチームでコーチをする事がすでに決まっています。野球を引退し、野球から離れた数ヶ月。目標がない事に、寂しさも覚えていたそうです。「中学・高校に進学する時、二度も辞めようと思っていた野球。でも、実際に野球から離れてみて野球の存在の大きさにやっと気づきました!」と彼女。

その中で、彼女が新たに見つけた道。それが「むさし野硬式野球団 オールシャインズ(All Shines)」今春、本格的に活動を始めることとなる女子硬式野球クラブチームです。彼女はここで新たな自分の夢と向き合います。「自分が描いているコーチが出来るかとても楽しみです」と笑う。真面目で、野球愛が強くて、根性がある彼女。そんな彼女なら、きっといいコーチになると思います。だって私の教え子ですから(笑)。

【BBガールズ通信】Vol.2⑨

(2015年12月、茂木選手とふたりで。)