高校野球・日本文理連載2 質を高める視点~鈴木崇コーチ

高校野球・日本文理連載2 質を高める視点~鈴木崇コーチ


日本文理鈴木コーチ メーン今夏の全国高校野球選手権新潟県代表・日本文理を鍛え上げたのは鈴木崇コーチだ。同校の甲子園初出場時のメンバーでもある。細部まで正確さを求め、妥協を許さない厳しさと、選手の内面をケアする優しさの両面を持って、チームを支えている。

「私自身、変わってきましたよ」。選手との接し方について、鈴木コーチはこう感じている。2004年にコーチと選手寮の管理者を任された。当初は規律に厳しく、少しのミスや生活面について口うるさく言った。

 

今は違う。「今の3年生は、自分たちで正すことができるし、自らチームメートにうるさいことを言える選手もいる。だから昔よりも楽といえば楽ですよ」。選手寮では80人の選手が共同生活をする。キャプテンの池田貴将、寮長の新井充を中心に、自主的にルールを決めている。

 

鈴木コーチは、野球よりも日々の生活に重点を置く。寮の管理者の立場で、選手の行動を重視。たとえば、食事や洗濯、入浴の順番などは敢えて決めていない。「80人の寮生が1度に動くのは無理です。食堂は40人が限度で、洗濯機の台数も限られていますから」。練習が終わって寮に帰ろうとしたら、もう何人かが先に戻っている。洗濯はできそうもない。そのときにどうするか。「もう少し居残り練習をしよう、とか。今日は洗濯物の数が少ないから一緒に洗うおう、とか。その場の状況を判断して効果的な方法を選ぶ。そういう思考が野球でも大事なんです」。基準がない中での状況判断が、野球に役立つことを促す。

 

日本文理は昨夏、今春のセンバツ、そしてこの夏と、3季連続での甲子園出場になる。今年のチームの主力は、昨夏の甲子園から経験している選手がほとんど。2009年の夏、新潟県勢初の決勝進出を果たし、準優勝した。当時のチームと比較して、「完成度は今のチームが上。力そのものもそうですが、置かれた環境、状況での判断ができる」。生活面を通して、成熟度の高いチームに仕上がった実感を得た。

 

練習では厳しさを見せる。1000本ノックに、走者とボールカウントなどの場面想定をいきなり告げて打つシートノック。プレーが鈍ると、練習を止め叱責。それはコーチ就任当時と変わらない。加わったのは質を高める意識付けだ。

 

公式戦のベンチに入れない1、2年生の練習試合は、鈴木コーチが指揮を取る。意識させているのはレギュラーと同じレベルの行動をすること。「プレーそのもののことではありません。練習試合で何打数何安打だった、ということも求めていない。レギュラーと同じように声を出し、準備をし、集中したか。そこを常に問いかけます」。昨秋の明治神宮大会で準優勝、北信越大会は昨秋、今春と優勝。現チームの強さは全国レベルだ。目の前に良い手本があることの貴重さを感じさせることで、選手たちの意識レベルを上げた。

 

1997年の夏、日本文理が甲子園に初出場したとき、2年生ながらレギュラーの二塁手だった。卒業後は東洋大学に進学。故障で選手生活は断念したが、学生コーチとして野球部を支えた。母校に戻って後輩たちを指導する今を、「幸せです」と言う。技術向上だけでなく、心のケアも怠らない。選手の悩みを聞き、アドバイス。進路の相談にも乗る。試合に出られずに、高校野球を終えなければならない選手たちの気持ちを吸い上げることに気を配る。

 

高校時代は甲子園に出ることが目標だった。今は全国制覇という言葉が普通に選手間で飛び交う。「会話のレベルが上がりましたね」と笑う。変わらないのは「文理の野球」を貫く気持ち。「打ち勝つ野球がうちのスタイル。そこは絶対にぶれない。自分もそういう野球をやりたくてここに入りました。今の選手たちも同じ気持ちのはず」。伝統の中に身を置く自分を感じながら、育てた選手が大舞台で躍動することを期待している。(斎)