【新潟・アスリートブック】 エンターテイナーとして~プロレス・マッスル坂井

【新潟・アスリートブック】 エンターテイナーとして~プロレス・マッスル坂井


坂井良宏 メーン1再加工

サッカーJ1アルビレックス新潟のホームゲームが開催された8月23日、新潟のご当地プロレス団体「新潟プロレス」の無料イベント試合が、デンカビッグスワンスタジアムのゲート前広場で開催された。

第1 試合の新潟無差別級選手権で王者・保坂秀樹に挑戦したのが、マスクマンのスーパー・ササダンゴマシン。リングに登場すると、この試合のプランとフイニッシュを説明するマイクパフォーマンス。ブームの「氷水チャレンジ」をした後にフォールする算段だった。だが、試合では、冷たさにたじろいでいた隙を突かれてフォール負けを喫した。

リング登場と同時に観客を爆笑させたスーパー・ササダンゴマシン。「新潟の人たちにだけお知らせしますけど、東京では、スーパー・ササダンゴマシンとして出場しているのは内緒なんです」と真顔で話す。その人物は、東京の人気エンターテインメントプロレス団体「DDT」に参戦しているプロレスラー、マッスル坂井こと、金型製造業の坂井精機(新潟市)の専務取締役、坂井良宏さん。

ご当地プロレスのマスクマン、首都圏の人気団体のメーン級、そして家業の取締役。新潟ローカルのテレビのバラエティー番組でコメンテーターも務める。多方面の活動をスムーズにこなすパワーと、周囲のつぼを押さえる発想力は、メディアだけでなく自治体、財界からも注目されている。

DDTでは、試合前に自らの試合のプランをパワーポイントを使って説明するパフォーマンスが好評だ。観客を笑わせるだけではなく、大学のプレゼンの講義での教材になり、講演の依頼もある。一方、新潟ではオーソドックスなプロレスを展開する。老人養護施設の慰問では、デビューしたばかりの女子高校生レスラーと対戦。追い詰めながら、最後に逆転負けした。「それを見て、車椅子のおじいさんとおばあさんが、スタンディングオベーションをしているんです。これだ、と思いましたね」。

東京では、エンターテインメント性を求められる。新潟ではプロレス本来のエキサイティングな面が共感を呼ぶ。「プロレスは即興性を求められるエンターテインメント。新潟でインプットするものは多いですよ」。どちらにも共通しているのは観客の欲求を感じ取ること。原点にあるものに変わりはないことを、あらためて感じ取った。

新潟明訓高校では剣道部の主力。早稲田大学に進み、在学時からDDTのメーンレスラーの1人として活躍した。2010年に引退し、新潟市の実家の坂井精機に勤務。2012年にDDTに復帰した。その年には新潟プロレスにも参戦し始めた。リング復帰は自ら仕掛けたわけではない。「すべてオファーをいただいてのものなんです。プロレスに限らず、取り組んでいること全てがそうなんです。だから『自分』がないんですよね」。スタンスは期待に応えること。常識にとらわれない発想、流行を取り込みつつも、基本は見失わない。自らが動かずとも与えるインパクトは大きく、周囲はそこに引かれていく。

家業については、「まだまだ素人」と言う。職人の世界。戸惑いは多い。そんな中でも、アイデアは出てくる。自社の金型を使って製作したDDTのグッズは、試合会場で販売すると完売した。マスクマンとして復帰した後のこと。製品へのクレームを入れるために、県外客が会社にやってきた。ひとしきり話が終わった後に、「お宅の専務のサインをいただけますか」と帰り際に言った。

やると決めたら、とことんやる。それが身上。多忙であっても週に2回のウエートトレーニングと、ロードワークは欠かさない。現在、社会人大学院に通い、MOT(技術経営)を学んでいる。「家業もプロレスも『プロ』ですから」。その軸にぶれはない。
(斎)

坂井良宏 メーン2再加工