【新潟・アスリートブック】 チャンプを作る男~新潟県ボクシング連盟理事長、新潟南高校ボクシング部監督・鶴木良夫さん

【新潟・アスリートブック】 チャンプを作る男~新潟県ボクシング連盟理事長、新潟南高校ボクシング部監督・鶴木良夫さん


新潟県スポーツ界が全国に誇る指導者、新潟南高校ボクシング部監督の鶴木良夫(65歳)さんが、監督就任40周年を迎えた。新潟南高校監督と同時に、新潟県ボクシング連盟の理事長でもあり、2012年には世界ユースに出場する全日本ユースの監督も務めた。4月からは日本ボクシング連盟の理事に就任する予定だ。名伯楽は、県のボクシングの底辺拡大、レベルアップを貪欲に追求し続ける。

メーン2 リサイズ

鶴木さんが、母校でもある新潟南高校ボクシング部の指導を始めたのは25歳のとき。以来40年、家業と平行してきた。「まだまだ動けます。頑張りますよ」。今は高校の指導後、新潟市ボクシング教室で一般向けの指導も行っている。新潟南高校から、ボクシング教室がある信濃川対岸の新潟市陸上競技場まで、季節、天候を問わずに徒歩で移動。言動は年齢を感じさせない。

その根源には1つの高校の指導者としてだけでなく、県のまとめ役としての自覚がひそむ。「プロの盛り上がりもあり、ボクシングへの関心が高まっています。新潟市教室の会員も150人に増えました。環境が良くなった今、いい時期です」。注目度が高まってきたタイミングを競技力の向上、底辺拡大の好機と捉える。

ボクシングは新潟のお家芸。2014年の長崎国体では成年・少年を合わせた種目別の総合得点で6位だった。2009年の新潟国体では新潟県が総合優勝。種目別得点1位を獲得する競技がほとんどだった。だが、それから5年が経過し、入賞を果たせず参加するだけになってしまった競技が増えた。

ボクシングのレベルは高い位置で安定している。新潟国体で種目別2位。その後は10年千葉が3位、11年山口が10位、12年岐阜が3位、13年東京が11位と、ほぼトップテンをキープ。それでも鶴木さんは「実力からすれば、種目別総合得点の3、4位は普通です。昨年は少し下がりました。今年はレベルアップをしていかないと」。目指しているのは全国上位ではなく、トップで安定すること。気の緩みはない。

新潟のボクシング界の強化策は、「新潟方式」として全国で認知されている。高校の垣根を取り払い、頻繁に合同で練習する。夏季には県出身の大学生も参加しての大規模な合宿を行う。ある高校の監督、コーチが他校の選手を指導したり、大学生選手が母校以外の高校生のミット打ちのパートナーを務める。そういった光景が普通だ。これらは鶴木さんが県連盟強化委員長として腕を奮った1990年代に確立された。

「1つなって強くならないと、将来につながっていきません」。この方法の中で、最初に生まれた全国大会優勝者は1988年のインターハイを制した佐々木忠広選手(巻農業高校=現巻総合高校)と岩橋徹也選手(新潟南高校)。これを皮切りに、昨年まで高校生、大学生、社会人で合計28人の全国優勝者を輩出し、のべ50個以上の全国タイトルを獲得した。佐々木さんは1992年のバルセロナ五輪にも出場。92年に全国高校3冠を制覇した仁多見史隆選手(興農館高校・現県連盟強化委員長)は96年のアトランタ五輪に出場した。

ただ、新潟南高校監督就任当初は母校の改革で手一杯だった。「練習に行こうと学校の玄関に入り、ボクシング場に着くまで、先生方に何度も呼び止められました。『ボクシング部の生徒がタバコを…』って(笑)」。部員の喫煙、飲酒、ケンカは日常茶飯事。『ボクシングは不良のスポーツ』と見られていた。

堕落した雰囲気を変えるために貫いたのものはシンプルだった。「強くなることです。強くなろうとすると、練習に取り組む姿勢が良くなる。そして生活態度も向上します」。法政大学時代は1968年のメキシコ五輪代表候補だった。監督になりたての頃は、選手と同じメニューをこなしながら圧倒した。部員の反発もあった。敢えて自身が「強さ」の見本になった。選手に自分を超えることを求めながら鍛えた。

30歳を過ぎると、教え子たちが教員として県内各地の高校に赴任し、ボクシング部を作り始めた。「新潟方式」を実行し始めたのはこの頃。「1つの高校だけでは練習相手が限られる。他のレベルを知らないから、全国大会に出ても勝てません。県内で競い合う相手がいれば、刺激になります」。ただ競うだけでは、派閥を作って足を引っ張り合うことになりかねない。そこで、練習では学校の壁を作らず、県全体で強くなることを目標に掲げた。県内での試合は切磋琢磨した成果を示す場になった。

本文 リサイズ

毎年、国体に向けて県が各競技団体からヒアリングを行い、強化に向けての要望を聞く。強化費の増額、施設の拡充、指導人員の確保とリクエストは絶えない。県ボクシング連盟のヒアリングはあっさりと終わる。「いつも私が話すのは『要望はありません』とだけ。ほとんど県の担当者と和やかに雑談をしていますよ(笑)」。自分たちで確立した強化策を粛々と進めていくだけ。その中で選手、指導者の代替わりも行われる。何年も同じことを繰り返し、積み重ねる。それでもマンネリという停滞はない。常に全国トップを目指しているからだ。

今、思考しているのは新潟方式のブラッシュアップ。「競技間の垣根を取り払いたいんです。他競技から学ぶことはたくさんありますし、新潟には素晴らしい指導者が多い。そういった人たちと協力し合うことでレベルを上げたいですね」。その中で、ボクシング競技として目指し続けるものは「チャンピオンを作り続けることです」と言った。
(斎藤慎一郎)

☆鶴木良夫(つるき・よしお)●1949年新潟市生まれ。新潟南高校でボクシングを始め、法政大学に進学。1968年のメキシコ五輪候補に。卒業後、新潟南高校監督に。現在、新潟県ボクシング連盟理事長、北信越連盟理事長、日本連盟監事。

〇新潟市ボクシング教室
練習生は小学生から高齢者までと年齢幅が広く、女性も30人以上在籍。それぞれが目的に合ったメニューで汗を流す。初心者は経験豊富なスタッフが丁寧に指導。

【住所】
新潟市中央区一番堀通町3-1(新潟市陸上競技場駐車場内)

【練習時間】
月~土 19:00~21:00(日曜・祝日は休み)

【料金】
女性、中学生以下  2000円
高校生       3000円
男性        4000円
※上記料金は、月何回通っても同一。
※グローブ等の用具も貸与。陸上競技場の駐車料金ももちろん無料です。
※入会時、入会金及びスポーツ傷害保険の加入費用が発生します。

【お問い合わせ】
TEL 025-228-6500