【BBガールズ通信】vol1 プロ契約を結んだ女子高生、新潟の希望の星

【BBガールズ通信】vol1 プロ契約を結んだ女子高生、新潟の希望の星


文/頓所理加(BBガールズ普及委員会・代表)

はじめに

「女子野球」について書かせていただけることになりました。昔は、野球は男子の為のスポーツでしたが、今は、女子でも野球を頑張る子がいます。実は沢山います。でも、まだそれはあまり知られていなくて、男子のスポーツという見方が強いのです。

女子野球は、今歩み始めたばかりです。野球が大好きな女の子達がいるという事を少しづつでも知ってもらえたら嬉しいです。そして、彼女達の未来がこれから少しづつでも明るくなりますように。そんな願いを込めながら、一人づつの選手に光を当てて連載をさせてもらおうと思います。

BBG2集合

今年のBBガールズ選抜チームと、練習試合の相手チームで一枚!

ここで連載をさせていただける事になった時、真っ先に頭に浮かんだのが「松谷比菜乃選手」です。

氏名:松谷 比菜乃(まつや ひなの)
出身地:新潟県
投打:右投右打
ポジション:投手
年齢:17歳
生年月日:1998年2月18日
身長:163cm
球歴:花咲徳栄高校女子硬式野球部(埼玉県)

私がBBガールズ選抜チームのコーチをしていたという縁もあり、彼女が小学6年生の時に、一時期、同じチームとなりました。小学生でありながら、とても野球と真摯に向き合っていて、熱い選手でした。

彼女は今年高校3年生ながら、「女子プロ野球選手」になる為のセレクションに見事合格!来春からは女子プロ野球選手となります。小学生から始めた野球。中学生の頃に「女子プロ野球選手になる!」と決めた夢に邁進し、夢への切符を掴んだ彼女は、新潟の女子野球界の期待の星です。

平成27年11月、彼女の地元柏崎で行ったインタビューを、連載の第一号とします。

 

「自分を試してみたい」から、ピッチャーを希望

彼女は、お兄ちゃんの背中を追いかけて、小学二年生から野球を始めました。田尻ファイターズという学童のチームで、柏崎でも屈指の強豪チームでした。彼女自身も卒団するまでに数々のメダルを手にしたそうです。「野球が強いというだけではなく、野球への取り組み方がかっこいい。そんな先輩達を見て、自分も野球を続けたいと強く思いました」と話します。

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小学校4年生の時、アルビレックス新潟の大会で始球式をさせてもらった。

2009年。彼女は6年生の秋に、新潟BBガールズ選抜チームの選手に選ばれました。新潟の女子野球普及を目的として2008年に初めて結成した選抜チームです。

新潟に「女子野球」という言葉がない中で、その年にBBG普及委員会を立ち上げました。その活動の一環として、女子学童選手だけでチームを作ったのです。関東の大会に出場し、今以上に新潟の女子野球のレベルを高めよう!という想いで、毎年選抜チームの活動を続けています。

私はそこでコーチとしてベンチに入っていました。 彼女と私は、このチームで初めて出会いました。選抜にエントリーをしてきた時の彼女の希望ポジションは、セカンドとサード。そして、3つ目の希望に「ピッチャー」と書いてありました。ピッチャーの経験は全くなかったにも関わらず、「女子だけのチームだから、投げてみたい」「自分を試してみたい」と思ったといいます。

小学生の時にそんな風に思える子は、正直なかなかいないですよね・・・ここが彼女の強さなんだと思います。

 

決勝戦直前の直訴

IBA(公益社団法人 少年軟式野球国際交流協会)主催の「学童女子選抜大会」に、彼女は新潟BBG選抜チームで挑みました!出場チーム数は多くはないのですが、女子だけの選抜チームが出場する大会なので、レベルの高い女子選手が沢山見られます。大会が始まってからは、彼女はショートとして出場しました。

セカンドでもサードでもなくショート。野球で一番難しいといわれるポジションです。

が、彼女はしっかりとこなしていきました。チームは勝ち進み、決勝まで上り詰めます。そこで、自分の中にある「投げたい!」という想いが強かった彼女は、決勝戦の前に「ピッチャーをやりたいです!」と監督に直訴したとのこと。当時、私は彼女のその発言を知らなかったので、決勝戦のマウンドに彼女が上がるのを見て、驚いたことを思い出しました。

今になってその話を聞くと、改めて彼女の強さに気づかされます。彼女の気持ちを汲んだ監督は、彼女を先発ピッチャーとし、決勝戦に挑みました。その強気な気持ちが、あの小さかった体のどこに隠されていたのか・・・。そして、結果は見事優勝!新潟から挑んだBBガールズ2年目の挑戦で、初優勝をおさめました!「忘れられない試合です!」と話す通り、全員でピンチを守りきり、全員で1点を取りに行き、彼女の力投と、仲間の執念により、優勝を勝ち取りました。この大会での彼女の成功体験が、「投手」としての目覚めだったのかもしれません。

中学では、柏崎シニアで男子と共に硬式野球を続ける道を選びました。しっかりと野球をしたかったからだといいます。ここでも彼女のポジションは、セカンドとサード。投手をしたいという想いは胸に秘めながらの日々が続いたようです。そして中学生となってからは、男子との体格、筋力の差に悩むようもなりました。「練習にも足が向かず、気持ちもさがり、本当に苦しい時期でした」と彼女。そんな時に、コーチをしていた父から「そんな姿勢なら野球を辞めろ」と言われたそうです。「でも、辞めなかったのはなんででしょうね。野球が好きだったんでしょうね」と彼女は笑いました。

高校を受験する頃には、彼女は、女子硬式野球の世界に飛び込むと決めていました。「ずっと目標としていた高校がありました!」と、彼女が選んだのは、女子野球の強豪校の埼玉にある花咲徳栄高校でした。

実はこの春に間に合うように、新潟にも開志学園高校女子硬式野球部が誕生しました。開志学園の女子硬式野球部の立ち上げにも関わった私としては、正直なところ「彼女と一緒に野球をしたい!」という想いもあり、彼女とそんな話をしたことも覚えています。でもあの時、彼女の中に花咲徳栄への憧れが本当に強く、強豪校で野球をするという決意も感じたので、私は彼女の背中を押しました。「比菜乃ならできるよ。頑張って!大会でお違い成長した姿で会おうね」と話しました。

彼女にとってこの決断は、県外へ出るという事を意味しています。でも、親元を離れる不安はなかったという彼女。そのわけは、彼女がずっと夢見ていた学校への進学だということも大きいんでしょうね。「不安どころか、楽しみな気持ちとわくわくでいっぱいでした」。

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高校2年の夏。決勝のマウンドを任された。

花咲徳栄高校では2年生の時からマウンドにあがり頭角を現しました。サイドスローで、スライダーの切れが抜群!引退するまで、そのスライダーにはどんどん磨きがかかり、他のチームから恐れられる投手へと成長をとげました。

そんな彼女ですが、サイドに変えたのは高校に入学してからとの事。監督に「プロを目指すなら、サイドスローがいい。女子プロ野球の世界では、まだサイドスローの投手は少ないからね」とアドバイスを受けたそうです。その言葉を受け、寮監である宮野さんにもご指導をいただきながら、自分流の投げ方を探し出したそうです。「監督の言葉と、宮野さんのバックアップが、今の私を作り上げてくれました。本当に感謝しています」。彼女の中での野球といえば、「花咲徳栄での3年間」というくらいです。本気で野球と向き合い、全力で挑んだ時間だったのでしょう。

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高校2年の夏の大会で、3回戦京都外大西と戦った時。最後のバッターを三振でとり、キャッチャーと抱き合った。

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高校3年の夏の大会の時。

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最後の大会で。良いフォームで投げられた。

「野球に集中したいんです!」

普段は無口な彼女ですが、こと野球となると、話は別。本当に野球が好きなんですね(笑)。本当に色々な表情をし、色々な話をしてくれました。

彼女との話の中で、一番面白かったのは、「他の野球にはあまり興味がない」というところ。プロ野球界(NPB)や、男子の高校野球界には、全くと言っていいほど関心がなくて、有名なプロ野球選手の名前をあげても、強い男子の高校野球チームの話をしても「知らない」と笑顔で答える彼女。「野球は好きでも、見ることが好きなわけではなく、自分自身で野球をすることが好き」。そういうスタンスなんです。

これもある意味彼女らしいなぁと感じました。女の子の部活特有のゴタゴタなどについて聞いてみても、「自分自身が、野球に集中できないのも嫌なんです。だから、つまらないゴタゴタには巻き込まれないですね。そこに興味がわかないんでしょうね」と笑います。「集中して野球がしたい。ただそれだけなんです。わがままですかね・・・。」わがままではなく、芯があり真っ直ぐな彼女が、とても素敵に思えました。

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プロテスト受験の時。

彼女の瞳の先には、明確な夢があります。女子プロ野球選手になる事!そしてそこで活躍し、いつか地元新潟に戻り、新潟で女子硬式野球のチームを持つ事!彼女なら、きっとその夢をかなえていってくれるんだろうなぁ。

「新潟で、女子硬式野球のチームを作る。その時は、頓所さんが監督で、私がコーチで!」と言われました。いやいや、それは無理です(笑)。「その時は、比菜乃が監督で、私がコーチだね」。なんだか幸せな会話でした。私自身も野球を続けていて良かったなと思う瞬間でした。

BBG1 ふたり

2015年11月、松谷選手とふたりで。

 

松谷比菜乃選手を応援するには?

女子プロ野球選手として来春から活動をする彼女ですが、京都フローラ・埼玉アストライア・兵庫ディオーネ・東北レイア(育成)のいずれかのチームへの所属が決まります。関東・関西の球場にて試合は行われます。彼女の活躍をぜひ皆さんにも観戦していただけたらと思います。詳しくは、日本女子プロ野球リーグのホームページをご覧ください。